今回は2000年後期のGIレース勝ち馬の中島理論的回顧をしてみようと思います。その3回目は阪神3歳牝馬S、朝日杯3歳S、有馬記念の3レースの勝ち馬たちです。<2001年1月20日>
父ダンシングブレーヴの日本での産駒総数は8世代で231頭+α−αは2000年産馬で、0〜50頭−。母父リヴリアの産駒総数は5世代で202頭。この両馬ともすでに逝去しているため、これ以上直仔が増えることはありません。牡牝の比率は分かりませんが、半数としても100〜130頭前後です。Nearco系の父系ですがマイノリティとして働くと考えます。また、リヴリアはテイエムオーシャンの母リヴァーガールに対して8歳時の0交配を与えており、祖母父マグニテュードの持つNever Bendを0化しています−もし非0交配の年廻りでも、リヴリアの父馬RivermanがNever Bendの8歳時交配生産馬であることにより弊害は無し−。曾祖母父イーグルはダービー馬ダイシンボルガードの父として知られています。しかし、現在その血を4代血統内に持つ馬は極めて少なく、これもマイノリティと判断します。Nearco系3本、Fairway系1本というPhalaris分枝4本による累代交配ですが、数の少ない先祖を持っていることにより弊害は和らいでいるようです。
牝系は、日本が誇る12号族ビューチフルドリーマー系。この牝系からは1991年の菊花賞馬レオダーバン以来のGI勝ち馬となりました。母リヴァーガールは1勝。祖母エルプスは11戦6勝。桜花賞(GI)、報知杯4歳牝馬特別(現報知杯フィリーズレビュー、GII)、京王杯AH(現京成杯AH、GIII)、TV東京杯3歳牝馬S(現フェアリーS、GIII)、函館3歳S(現函館2歳S、GIII)と重賞5勝を挙げ、最優秀3歳牝馬に選出されました。曾祖母ホクエイリボンは競走歴無し。エルプスの全姉となるフジイーグル−マグニテュードの初年度産駒−から、シンザン記念(GIII)を勝ちマイルCS(GI)で2着したメイショウテゾロ−アサティスの初年度産駒−が出ました。
また、牝系4代の交配年齢を見ると、いずれもが8歳時までの若年期に交配されており、母体の充実を受け継いだ体力のある牝系ということが言えます。
父 | 母父 | 祖母父 | 曾祖母父 |
---|---|---|---|
ダンシングブレーヴ (Northern Dancer系) |
リヴリア (Never Bend系) |
マグニテュード (Never Bend系) |
イーグル (Fairway系) |
父の活性値 | 母父の活性値 | 祖母父の活性値 | 曾祖母父の活性値 |
1.50 (14歳時交配) |
0.00 (8歳時交配) |
1.50 (6歳時交配) |
1.50 (14歳時交配) |
父の分枝状況 | 母父の分枝状況 | 祖母父の分枝状況 | 曾祖母父の分枝状況 |
Nearcoの4代孫 | Never Bendの孫 | Never Bendの孫 | Phalarisの4代孫 |
8代残牡先祖数 | マジック数 | 潜在能力指数 | 少ない先祖etc |
---|---|---|---|
9/128 | 0 | 9.00 | Northern Dancer有 リヴリア、イーグル |
形相の遺伝 | 料の遺伝 | 牝系 | 何番仔? |
ダンシングブレーヴ | 7.50 | ビューチフルドリーマー系 (No.12) |
2番仔 |
※潜在能力は数値が少ないほど大きいことを示しています。
父はサンデーサイレンス。もはや言わずもがなですね。メジロベイリーはサンデーサイレンス産駒16頭目のGIホースです。メジロベイリーの他にも、アグネスフライトの全弟アグネスタキオンがラジオたんぱ杯3歳Sを圧勝しました。また、もうすでにこの世にいませんが、この朝日杯の2着馬タガノテイオーもサンデーサイレンス産駒でした。
牝系は、日本が誇る4号族ソネラ系。母レールデュタンは22戦4勝。3番仔メジロモネはブラジルカップ(OP)など中央で33戦5勝、地方では東国賞(高崎)など16戦4勝を挙げ、2001年1月4日現在、まだ現役だそうです。6番仔にメジロブライト−メジロライアンの初年度産駒−。同馬は25戦8勝、2着8回、3着3回。天皇賞・春(GI)、阪神大賞典(GII)、日経新春杯(GII)、AJC杯(GII)、ステイヤーズS(GII)、共同通信杯4歳S(現共同通信杯、GIII)、ラジオたんぱ杯3歳S(現ラジオたんぱ杯2歳S、GIII)と重賞7勝の名馬。2001年からアロースタッドで種牡馬として供用−祖父アンバーシャダイ、父メジロライアンに続いて親仔3代の同一種馬場供用となりました−。不受胎後の7番仔メジロオーキッドは5戦1勝。同馬はその父メジロパーマーが8歳時の0交配を受けました。すでに繁殖入りしていて、その産駒が楽しみです。そして、9番仔にメジロベイリー。3、6、9という3の倍数番に生まれた仔がよく走っているようです。祖母ケイツナミは18戦2勝ですが、毎日杯(現GIII)2着、金杯(現京都金杯、GIII)3着、桜花賞(現GI)4着があります。レールデュタンは不受胎後の1番仔となります。4番仔アツムテキは京都大障害・春、小倉障害Sを勝ち、平地と障害を合わせて45戦8勝と活躍しました。曾祖母ハイビスカスは21戦3勝。直孫に中山大障害・秋3着のオキノトモヅナがいます。4代母キクジュヒメは平地・障害合わせて29戦1勝。産駒はよく走り、キクノヒカリはダイヤモンドS(現GIII)勝ち、ナスノキクはオークス(現GI)3着、そしてナスノコトブキは菊花賞(現GI)、NHK杯(旧GII)、朝日CC(現GIII)を勝ち1966年の最優秀3歳牡馬に選出されました。
メジロベイリーは母レールデュタンが15歳時の料的遺伝値『1.75』という最高の時期に生産されました。相応に期待できる体力の持ち主ではないでしょうか−料的遺伝値の総和は『4.25』ですが−。
父 | 母父 | 祖母父 | 曾祖母父 |
---|---|---|---|
サンデーサイレンス (Hail to Reason系) |
マルゼンスキー (Northern Dancer系) |
ラディガ (Ribot系) |
アドミラルバード (Nearco系) |
父の活性値 | 母父の活性値 | 祖母父の活性値 | 曾祖母父の活性値 |
0.75 (11歳時交配) |
1.75 (7歳時交配) |
1.00 (4歳時交配) |
0.75 (11歳時交配) |
父の分枝状況 | 母父の分枝状況 | 祖母父の分枝状況 | 曾祖母父の分枝状況 |
Nearcoの5代孫 | Nearcoの4代孫 | Eclipseの17代孫 | Nearcoの直仔 |
8代残牡先祖数 | マジック数 | 潜在能力指数 | 少ない先祖etc |
---|---|---|---|
23/128 | 1 | 17.25 | Northern Dancer有 ラディガ、アドミラルバード |
形相の遺伝 | 料の遺伝 | 牝系 | 何番仔? |
マルゼンスキー (Quill) |
4.25 | 兄にメジロブライト ソネラ系 (F4-R) |
9番仔 |
※潜在能力は数値が少ないほど大きいことを示しています。
強靭な精神力を見せつけて、『世紀末王者』テイエムオペラオーが有馬記念もぶっこ抜きました。2着メイショウドトウとの着差は「ハナ」差でしたが、勝ち切った所に、この馬の凄みを感じました。重賞8連勝、そして天皇賞・秋、JC、有馬記念の同一年3連勝により2億円の上積みボーナスを得て、生涯獲得賞金は16億円オーバーとなりました。ス、スゴイ。
この馬については、従来の中島理論における理解の範疇を超えたところに行ってしまいました。「父オペラハウスの2年度産駒で産駒少」「母が不受胎後の産駒である」「祖母父Key to the Kingdomが希少価値先祖」「世界的名牝系の勢いの波に乗った」ということだけでは説明出来ません。いわゆる『宇田理論』で基準交配がなされている、『伴性遺伝』をたどる等の別アプローチも必要と思います。
テイエムオペラオーばかりが中島理論使いの標的になりますが、2着続きのメイショウドトウもPhalaris4系の累代交配がなされている馬なんですよね−『Northern Dancer(ラストタイクーン)系×Raise a Native系×Nijinsky系×Turn-to系』−。もはや既成事実ですが、テイエムオペラオーがGIレースを勝った時の2着馬は、全てNorthern Dancer系馬です。そのうち5回がラストタイクーン系馬、1回がダンシングブレーヴ系馬。また、2着に敗れた菊花賞時、1着ナリタトップロードの母父がメイショウドトウと同じくAffirmed−2001年1月12日に死亡。20世紀最後の米国三冠馬−でした。
父 | 母父 | 祖母父 | 曾祖母父 |
---|---|---|---|
オペラハウス (Northern Dancer系) |
Blushing Groom (Red God系) |
Key to the Kingdom (Bold Ruler系) |
Drone (Sir Gaylord系) |
父の活性値 | 母父の活性値 | 祖母父の活性値 | 曾祖母父の活性値 |
1.75 (7歳時交配) |
0.25 (9歳時交配) |
1.75 (7歳時交配) |
1.00 (4歳時交配) |
父の分枝状況 | 母父の分枝状況 | 祖母父の分枝状況 | 曾祖母父の分枝状況 |
Nearcoの4代孫 | Nasrullahの孫 | Nasrullahの孫 | Nearcoの4代孫 |
8代残牡先祖数 | マジック数 | 潜在能力指数 | 少ない先祖etc |
---|---|---|---|
17/128 | 0 | 17.00 | Northern Dancer有 Key to the Kingdom |
形相の遺伝 | 料の遺伝 | 牝系 | 何番仔? |
オペラハウス | 4.50 | ツルマルツヨシも同牝系 (No.4-M) |
7番仔 (不受胎後) |
※潜在能力は数値が少ないほど大きいことを示しています。
2000年の中央競馬GIレースは、ここ10年では特異な状況の1年でした。明らかに「すう勢」が変わっていました。
どこが特異であったのか?それは、「直父系Northern Dancer系馬がGIレースを10勝もした(牡牝合わせて)」というところです。もちろん、『世紀末王者』テイエムオペラオー抜きには語れないことです。参考として、1990年〜2000年までの11年間のNorthern Dancer系GI勝ち馬を別表にまとめておきます。
テイエムオペラオーが『直父系Northern Dancer牡馬』として10年ぶりに複数GI勝ち馬となりました。2000年は天皇賞・春、宝塚記念、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念とGI5勝をマークしました。テイエムオペラオーの現役最強ぶりは言わずもがなですが、Hail to Reason系全盛のご時世に現れたのが『直父系Northern Dancer有数値牡馬』の彼でした。また、第1回ジャパンカップダート勝ち馬となったウイングアローは、フェブラリーSと合わせてGI2勝をあげました。彼も『直父系Northern Dancer系牡馬』ですが、Northern Dancerは準0化されています。メジロライアン&メジロブライト親仔と同じように、従来の統領性を得た牡馬です。キングヘイローは、11度目のGI挑戦でついに栄冠を手に入れました。皐月賞2着、菊花賞5着、有馬記念6着、マイルチャンピオンシップ2着などを経て、つかんだGIは1200m戦の高松宮記念でした。彼の身体能力は恐ろしく高いと思うのですが、結果的に、日本のハーレムでは「スプリントGIの勝ち馬」で現役を終えました。これは従来の「血のコンプレックス」によるものと考えます。阪神3歳牝馬Sを勝ったテイエムオーシャンは、キングヘイローと同じくダンシングブレーヴの直仔です。産駒数の少なさゆえにでしょうか、ダンシングブレーヴの産駒は闘争心旺盛に見えます。それでも、他のNorthern Dancer系種牡馬と同様、牝駒が優勢傾向であることに違いはありません。
Hail to Reason系の種牡馬が多数導入されたことにより、Northern Dancer系の飽和具合がマシになったということでしょうか。いずれにせよ、Phalaris〜Nearco系によるボス争いです。血の流れがそうさせるのならば、仕方ありません。しかし、「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理を表す」という『平家物語』の冒頭の一節のとおり、現在繁栄を極めているものはいずれ必ず衰えます。そのスパンがどれほどのものであるのか。それは、うかがい知れません。けれど、肝に銘じておかなければならないことです。波の見極めができないものは、その波の中にさらわれて行くだけです。
以上、オオハシでした。これから走る馬、人すべてが無事でありますように。
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