今回は2000年前期のGIレース勝ち馬の中島理論的回顧をしてみようと思います。その3回目は安田記念と宝塚記念の2レースの勝ち馬たちの回顧と総括です。
注;フェアリーキングプローンは南半球産馬、父デインヒルが北半球産馬です。南半球産馬は秋仔であるため、活性値の計算を行う際に「0.125」加算しなければならないのですが、面倒ですから加算していません。どうもすみません。
父デインヒルはNorthern Dancer(1961.5.27)系の種牡馬。その父Danzig(1977)の8歳時交配を受けた0遺伝馬です。7代残牡先祖数は「6/64(推定)」と少なく、1994/95シーズンのオセアニアのリーディングサイアーとなりました。ヨーロッパ、オセアニア、日本合わせて30頭以上の重賞勝ち馬を輩出−オセアニアだけで21頭のGI勝ち馬を輩出−。
母はオーストラリア産のTwiglet。現役時代はVRCエドワードマニフォールドS(GII)、AJCフリオスS(GIII)など重賞2勝。2番仔にSTCカンタベリーS(GII)、AJCチャレンジS(GII)など重賞4勝のEasy Rocking(1996.10.24)を輩出。フェアリーキングプローンは3番仔。祖母ExtraditeはTwigletの他にQTCホワイトライトニングH(GIII)の勝ち馬Facile(1989.11.10)を輩出。曾祖母Expulsion(1965)はVATCデビュータントS(GIII)の勝ち馬Selsey(1972)を輩出。
父 | 母父 | 祖母父 | 曾祖母父 |
---|---|---|---|
デインヒル (Northern Dancer系) |
Twig Moss (Tourbillon系) |
Bletchingly (Hyperion系) |
インファチュエイション (Nearco系) |
父の活性値 | 母父の活性値 | 祖母父の活性値 | 曾祖母父の活性値 |
0.00 (8歳時交配) |
1.25 (13歳時交配) |
0.75 (11歳時交配) |
1.25 (13歳時交配) |
父の分枝状況 | 母父の分枝状況 | 祖母父の分枝状況 | 曾祖母父の分枝状況 |
Nearcoの4代孫 | Tourbillon〜Herod系 | Whaleboneの13代孫 | Nearcoの仔 |
8代残牡先祖数 | マジック数 | 潜在能力指数 | 闘志 |
---|---|---|---|
7/128 | 2 | 3.50 | Northern Dancer0化 Native Dancer0化 |
形相の遺伝 | 料の遺伝 | 牝系 | 何番仔? |
Twig Moss (Montagnana) |
5.75 (ホントは3.875と思う) |
活力あり (No.22) |
3番仔 |
※潜在能力は数値が少ないほど大きいことを示しています。
テイエムオペラオーに関する解説は2000年前期のGIレース勝ち馬回顧(その2)において述べましたので、そちらを参照してください。
ここでは、過去10年の中央競馬における『直父系がNorthern Dancer系の牡馬GIウイナー』について述べてみたいと思います。
年次 (牡馬が出走可能な GIレース数) |
勝利レース (施行時期・条件) |
該当馬 (生年月日) |
Northern Dancerの 保有状態 (直父系の乗算活性値) |
---|---|---|---|
1990年 (全16レース中13レース) |
天皇賞・春 (春季・京都芝3200m) |
スーパークリーク (1985.5.27) |
有数値 (2.34375>0.125) |
天皇賞・秋 (秋季・東京芝2000m) |
ヤエノムテキ (1985.4.11) |
有数値 (0.546875>0.125) |
|
1991年 (全16レース中12レース) |
宝塚記念 (春季・京都芝2200m) |
メジロライアン (1987.4.11) |
準0化(イエロー0) (0.078125<0.125) |
菊花賞 (秋季・京都芝3000m) |
レオダーバン (1988.4.25) |
有数値 (2.34375>0.125) |
|
1992年 (全16レース中12レース) |
朝日杯3歳S (冬季・中山芝1600m) |
エルウェーウィン (1990.2.24) |
有数値 (0.3125>0.125) |
1993年 (全16レース中12レース) |
該当馬なし JC馬レガシーワールド(1989.4.23)はせん馬のため除外 |
||
1994年 (全16レース中12レース) |
天皇賞・秋 (秋季・東京芝2000m) |
ネーハイシーザー (1990.4.27) |
0化(グリーン0) (0.000<0.125) |
1995年 (全16レース中12レース) |
安田記念 (春季・東京芝1600m) |
ハートレイク (1991.4.22) |
有数値 (2.1875>0.125) |
1996年 (全19レース中14レース) |
NHKマイルカップ (春季・東京芝1600m) |
タイキフォーチュン (1993.2.9) |
0化(グリーン0) (0.000<0.125) |
日本ダービー (春季・東京芝2400m) |
フサイチコンコルド (1993.2.11) |
クロスにより0化(ブルー0) (1.25>0.125) |
|
ジャパンカップ (冬季・東京芝2400m) |
シングスピール (1992.2.25) |
有数値 (0.9375>0.125) |
|
1997年 (全20レース中15レース) |
フェブラリーS (冬季・東京ダ1600m) |
シンコウウインディ (1993.4.14) |
有数値 (0.875>0.125) |
高松宮杯 (春季・中京芝1200m) |
シンコウキング (1991.4.24) |
0化(グリーン0) (0.000<0.125) |
|
ジャパンカップ (冬季・東京芝2400m) |
ピルサドスキー (1992.4.23) |
0化(グリーン0) (0.000<0.125) |
|
1998年 (全20レース中15レース) |
天皇賞・春 (春季・京都芝3200m) |
メジロブライト (1994.4.19) |
準0化(イエロー0) (0.1171875<0.125) |
高松宮記念 (春季・中京芝1200m) |
シンコウフォレスト (1993.4.29) |
有数値 (0.546875>0.125) |
|
1999年 (全20レース中15レース) |
フェブラリーS (冬季・東京ダ1600m) |
メイセイオペラ (1994.6.6) |
0化(グリーン0) (0.000<0.125) |
皐月賞 (春季・中山芝2000m) |
テイエムオペラオー (1996.3.13) |
有数値 (1.96875>0.125) |
|
朝日杯3歳S (冬季・中山芝1600m) |
エイシンプレストン (1997.4.9) |
0化(グリーン0) (0.000<0.125) |
|
スプリンターズS (冬季・中山芝1200m) |
ブラックホーク (1994.5.14) |
0化(グリーン0) (0.000<0.125) |
過去10年に施行された中央競馬のGIレースの総数は175レース。そのうち牡馬が出走可能なGIレースの数は132レースでした。その132レース中、『直父系がNorthern Dancer系の牡馬』が勝利したレースの数は19レース。およそ14.4%の占有率です。19レースを制した牡馬はすべて別の馬です。1990年以後、テイエムオペラオーが現れるまでに複数のGIレースを制した内国産牡馬は現れませんでした−スーパークリークは1988年に菊花賞、1989年に天皇賞・秋を、ヤエノムテキは1988年に皐月賞を勝利しています−。
19頭中、Northern Dancerを有数値で持つ馬は9頭。そのうち、ハートレイクとシングスピールの2頭は外国招待馬で主戦場が欧州でした。また9頭が勝利した時期を見ると、春季が4頭、秋季が2頭、冬季が3頭でした。勝利した競馬場別に分けると、東京4頭、中山2頭、京都2頭、中京1頭でした。勝利したレースの距離別に分けると、3200m1頭、3000m1頭、2400m1頭、2000m2頭、1600m3頭、1200m1頭でした。19頭中、いずれかの方法でNorthern Dancerを0化した馬は10頭。グリーン0を持つ馬が7頭、イエロー0を持つ馬が2頭、ブルー0を持つ馬が1頭でした。また10頭が勝利した時期を見ると、春季が5頭、秋季が1頭、冬季が4頭でした。勝利した競馬場別に分けると、東京5頭、中山2頭、京都2頭、中京1頭でした。勝利したレースの距離別に分けると、3200m1頭、2400m2頭、2200m1頭、2000m1頭、1600m3頭、1200m2頭でした。
1990年代を「1990年〜1994年(前期)」「1995年〜1999年(後期)」の前後期に分けると、前期5年は牡馬が出走可能な61のGIレース中6レースに勝利しました。その占有率は9.8%です。6レースに勝利した6頭のNorthern Dancer保有状態は有数値が4頭、0化が2頭でした。また後期5年は牡馬が出走可能な71のGIレース中13レースに勝利しました。その占有率は18.3%です。13レースに勝利した13頭のNorthern Dancer保有状態は有数値が5頭、0化が8頭でした。
1990年代の後期5年の13頭に注目すると、そのうち外国産馬8頭−エルウェーウィン、ハートレイク、タイキフォーチュン、シングスピール、シンコウキング、ピルサドスキー、シンコウフォレスト、エイシンプレストン、ブラックホーク−、持込馬1頭−フサイチコンコルド−と外国で交配された馬が9頭もいることに気が付きます。外国で交配された9頭のうち0化処理のなされた馬が6頭、有数値保持馬が3頭です。有数値保持馬であるハートレイク、シングスピール、シンコウフォレストの3頭。ハートレイクとシングスピールは、上記しましたように欧州が主戦場である外国招待馬です。欧米は日本と異なりNorthern Dancerの飽和の程度が薄く、有数値の牡馬でもGIレースをバリバリ勝利しています−ただし、それでも近年は有数値牡馬の活力が薄れ、今年(2000年)の英愛ダービー馬Sinndar(1997.2.27)、仏ダービー馬Holding Court(1997)、仏愛2000ギニー馬Bachir(1997)などはNorthern Dancerの0処理をなされた馬たちです−。シンコウフォレストが勝利した高松宮記念は創設3年目のGIでした。高松宮記念は現在の中央競馬GIレース中、唯一ローカルの中京競馬場で行われるGIでもあります。その平坦で小回りな芝コース形態は、極限を競うGIレースの施行場としてはやや見劣りするとも考えます。また、1996年以降は出走できるGIが増加したため、単純にGI勝ちを収める割合が増えたとも考えられます。タイキフォーチュン、シンコウウインディ、シンコウキング、シンコウフォレスト、メイセイオペラの5頭は創設3年目までの新設GIの勝ち馬です。13頭中、純粋な内国産馬はシンコウウインディ、メジロブライト、メイセイオペラ、テイエムオペラオーの4頭です。メジロブライトとメイセイオペラの2頭は0化処理されています。シンコウウインディは有数値保持馬ですが、勝利したのは冬季のダートGIであるフェブラリーSです。
そして、明けて2000年。フェブラリーSをウイングアローが、高松宮記念をキングヘイローが、そして天皇賞・春と宝塚記念をテイエムオペラオーが勝ちました。前期のGI10レースが終了した時点で、すでに4レースにおいて『直父系がNorthern Dancer系の牡馬』が勝ち馬となっています−フェアリーキングプローンはせん馬なので除外−。しかし、やはりというか「フェブラリーSと高松宮記念」という2つのレースで勝ち馬が出てしまいました。「冬季に行われるダートGI&平坦小回りの短距離戦GI」でしか勝利できなくなったのは、悲しいことです−もっとも、ウイングアローはNorthern Dancerの準0化がなされた産駒ですが−。
こうして見ていくと、テイエムオペラオー(父オペラハウス)という馬がいかに『特異な存在』かということが浮き彫りになってきます。確かにキングヘイロー(父ダンシングブレーヴ)は皐月賞で2着、マイルチャンピオンシップで2着になっているのですが、それでもやっと勝てたのは高松宮記念でした。他にもオースミブライト(父ラストタイクーン)が皐月賞2着、ラスカルスズカ(父コマンダーインチーフ)が天皇賞・春2着しているのですが、前者は「歯替わり」以後神戸新聞杯(GII)を勝利しているだけですし、後者は人気になるものの「重賞勝ちまであと一歩」という感じです……。なぜテイエムオペラオーだけ勝ち切ることができるのでしょうか?「血脈の過渡期」において、彼だけに与えられた特権なのでしょうか?それとも岩元市三調教師と和田竜二騎手の「師弟愛」が彼を走らせているのでしょうか?いずれにせよ、今の私では答えを出せません。
中島理論使い泣かせのテイエムオペラオーですが、その強さは素直に認めたいと思います。現実にGIレースを3勝もしているわけですし。いかに「スローペース症候群による瞬発力勝負だけのレース」「GIレース乱発による希少性の減少」「他父系馬の加速度的増加による主導勢力の揺らぎ」という背景があるにせよ、です。彼は「勝利」を収め続けているのですから。
データを見なおすと、今更ながら気がつくことがあります。ヤエノムテキが天皇賞・秋を勝利して以後、日本で交配、生産された直父系Northern Dancer有数値牡馬は、東京競馬場の芝GIレースでまったく勝利を収めることが出来ていません。『Mの法則』使いの方ならここらあたりは常識なのでしょうね。中島理論使いの私はやっと気が付きました。日本で走る競走馬にとって、最も厳しい戦いが繰り広げられるであろう府中、東京競馬場。統領性を失ってしまった父系では、やはりその厳しい条件下で勝利を収めようとする意欲が生まれないのでしょうか。
↑の『直父系がNorthern Dancer系の牡馬GIウイナー』に関する記述が長くなりましたが、いちおうまとめておきます。
2000年前期のGI勝ち馬たち
結果的にダービーの1、2着馬にNorthern Dancerの姿はありませんでした。アグネスフライト、エアシャカールの2頭ともに上手く統領性を得たサンデーサイレンス産駒だったと言えるでしょう。ただし、懸念するのはその「ダービーがサンデーサイレンス産駒のワンツーフィニッシュだった」という事実です。最後の力を振り絞った産駒でなければ良いのですが……。初年度産駒がワンツーフィニッシュを決めるのとは訳が違うと思います。サンデーサイレンスは、初年度の1992年生まれから1997年生まれまでの6世代で産駒総数が580頭となります。1998年生まれ世代は157頭おり、7世代の産駒総数が737頭という数になります。おそらくは、この1998年生まれ世代(7世代目)を境目に産駒の闘争本能に大きなかげりが生じるのではないかと考えます。中島理論的には自身の種付け総数が720頭を超えたということがありますし、直仔が「これでもか!」というくらいに種牡馬供用されているため、サンデーサイレンスを血統構成内に持つ馬があまりにも増えすぎている現状もあります。現在、年産8500頭くらいの生産頭数のうち、その1割を上回る1200頭以上の産駒がサンデーサイレンスを血統構成内に持つ馬たちだそうです−ちなみに、1999年のサンデーサイレンスの種付け頭数は199頭でした−。
中島理論使いは古い牝系を応援したくなるのですが、2000年前期のGIレースではアグネスフライト、ウイングアローの2頭の母系が輸入以来30年以上経た牝系となります。競馬の祭典・日本ダービーでアグネスフライトが母仔3代クラシック制覇という大偉業を達成してくれましたから、良しとすべきですね。「日本にも伝統があったんだ」と中島氏もお喜びのことでしょう。
全体的に見て、ほぼ中島理論に沿う形でGIレースの決着がなされていると思います。フェブラリーS2着のゴールドティアラ、皐月賞2着のダイタクリーヴァにはNorthern Dancerの血が含まれていません。テイエムオペラオーの強さは「例外的なもの」なのでしょうね。オークスの結果にしても4着のレディミューズまではNorthern Dancerの0化がなされている馬たちでした。ダービーの結果にしても3着のアタラクシアまではNorthern Dancerが無し、あるいはNorthern Dancerの0化がなされている馬たちでした。安田記念は、2着のディクタットがMatchem系のサラブレッドとして、久しぶりに日本のGIレースで連に絡んでくれました−さらに、母父Sadler's Wellsが8歳時の0交配を与えています−。宝塚記念2着のメイショウドトウもNorthern Dancerの0化がなされている馬です−さらに、母父Affirmedが8歳時の0交配を与えています−。
工藤嘉見調教師の引退の花道を飾るGI制覇(ウイングアロー)、坂口正大調教師涙涙のGI制覇(キングヘイロー)、桜花賞の勝利によるサンデーサイレンス産駒の5大クラシック完全制覇(チアズグレイス)、山内研二厩舎のオークスワンツーフィニッシュ(シルクプリマドンナ&チアズグレイス)、アグネスフライトの母仔3代クラシック制覇&サンデーサイレンス産駒3年連続ダービー制覇、香港馬の日本GI初制覇(フェアリーキングプローン)など話題の豊富な2000年前期のGIレースでした。2000年後期のGIレースではどんな馬たちが勝ち名乗りをあげるのでしょうか。次代の日本競馬を担う良馬の出現を期待します−できればマイナー血統で−。
以上、オオハシでした。これから走る馬、人すべてがどうか無事でありますように。
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