習慣K馬通信をご覧の皆様、こんにちは。2005年秋の重賞裏街道を担当させて頂いております、オオハシと申します。前回に引き続きまして、よろしくお願い致します。それでは今回は第8回富士S(GIII)について。
富士Sはかつてジャパンカップ(GI)の2週前に行われる定量のオープン特別(芝1800m)として知られていました。オールドファンに語り継がれているトリプティク(1982.4.19)の「ワープした末脚」が発揮されたのもこのレースでした。1990年代のオープン特別時代における主な勝ち馬を連ねると、シンコウラブリイ(1989.2.2)、マチカネタンホイザ(1989.5.7)、サクラチトセオー(1990.5.11)、フジヤマケンザン(1988.4.17)、シンコウキング(1991.4.24)などがいます。定量ゆえに力量のある馬が出走するオープン特別戦でした。
重賞として格上げされたのは1998年から。第1回の勝ち馬はエアジハード(1995.4.9)。以降、レッドチリペッパー(1996.4.4)、ダイワカーリアン(1993.3.18)、クリスザブレイヴ(1994.2.18)、メイショウラムセス(1998.3.28)、ミレニアムバイオ(1998.2.6)、アドマイヤマックス(1999.4.10)と勝ち名乗りをあげています。なお、第1回と第2回は芝1400mで行われ、第3回(2000年)から現行の芝1600mとなり、同時に菊花賞(GI)と同じ週に行われるようになりました。現在はマイルCS(GI)の前哨戦の様相です。
第8回の今年は16頭出走。1番人気はキネティクス(1999.4.3)、2番人気はマイネルレコルト(2002.5.10)、3番人気はウインラディウス(1998.3.7)。
スタート。好発進のタニノマティーニ(2000.5.23)に対して果敢にテンを叩いたニシノシタン(2000.5.14)が積極的に飛ばしました。1番人気キネティクスは中団後方10番手の位置、2番人気マイネルレコルトは最後方、3番人気ウインラディウスは中団7番手辺りを鞍上をやや引っ張り気味に進んでいました。1000m通過が58秒3の淀みのない流れ。3角から4角にかけて馬順に大きな変動はなく、勝負は直線へと移りました。
直線。残り350mを切って、先頭を走るニシノシタンの脚色が鈍り始めたところを番手追走だったタニノマティーニが交わして先頭に踊り出ました。そのすぐ後、タニノマティーニの外側すぐ後ろに控えていた「赤、黒縦縞、白袖赤一本輪」の勝負服、黒鹿毛馬が負けじと進出しました。
ウインラディウス、田中勝春騎手の左右のムチに応えて、差し脚を我慢強く伸ばしました。内の「黄、水色襷」の勝負服、鹿毛馬も須貝尚介騎手の左ムチに応えるべく、懸命に食い下がり差し返しました。外の520kgと内の496kg、大柄な馬どうしの叩き合い。最後は追ったものの強みか、ウインラディウスが4分の3馬身先んじたところがゴールでした。
2着タニノマティーニの後にはクビ差まで追い詰めていたキネティクスが3着。以下、1と4分の1馬身差でアルビレオ(2000.4.7)が4着、ハナ差でアサクサキニナル(1999.4.10)が5着。マイネルレコルトは最後方から33秒7の脚を使いましたがさらにハナ差の6着まで。
1着から8着までがコンマ5秒差に収まる、マイル重賞らしい1戦でした。
今年の富士Sを制したウインラディウスについて、簡単に父系を見直してみます。
中島理論を使う人(以下、中島理論使いと呼称)は、まず「4代に渡る父の構成(以下、4代血統構成と呼称)」、すなわち「父、母父、祖母父、曾祖母父」を確認しています。ウインラディウスの場合は、
「サンデーサイレンス(父)×マルゼンスキー(母父)×シルバーシャーク(祖母父)×セダン(曾祖母父)」
という種牡馬たちが、4代血統構成を形作っています。
中島理論使いは、4代血統構成が同一父系である事、例えばPhalaris(1913)〜Nearco(1935.1.24)系の種牡馬が4代に渡り配されている場合などを嫌います。今回のウインラディウスは祖母父が貴重なMatchem(1748)〜Man o'War(1917.3.29)系のシルバーシャーク(1963)、曾祖母父がSt.Simon(1881)〜Prince Bio(1941)系のセダン(1955.3.9)であることにより、4代血統構成に多様な血が使われているところに良さを感じたりします。まま、本当に単純に血統の構成を見ているだけです。
また、5代血統表に現れるクロスを確認したところ、ウインラディウスは5代アウトクロス馬でした。きついインブリードを持つ馬も、中島理論使いはあまり好みません。
以上、父系の血統構成からは「良い馬だな」というのが、中島理論使いとしての私の感想です。
それでは、今度は牝系(ボトムライン)に目を転じてみます。
牝系を見る際、中島理論使いは日本古来の牝系を応援してしまう所があります。今回のウインラディウスは、遡れば英国産の牝馬フラストレート(1900)に行き着く1号族です。フラストレート(frustrate)、「〜を失望させる、…に挫折感を与える」といった意味の動詞を名前に持つ牝馬は、日本の競馬を開墾したともいえる小岩井農場の基礎繁殖の1頭として知られています。フロリースカップ(1904)やビューチフルドリーマー(1903)、アストニシメント(1902)、プロポンチス(1897)、ヘレンサーフ(1903)、キーンドラー(1898)など共に、輸入後1世紀を迎えようとする今日でも、名牝系として世代を重ね続けています。
さて、フラストレート系といえば、私の卑小な脳に刻まれている記憶によると、近年から30年前くらいまでで、以下のような馬たちが思い浮かびました。
少し前ならば、ウインラディウスの従妹であるオークス(GI)馬ウメノファイバー(1996.5.5)。ひと昔前ならば安田記念(GI)を制したトロットサンダー(1989.5.10)。ふた昔前ならば天皇賞・秋(GI)を当時の日本レコードで制したホウヨウボーイ(1975.4.15)。四半世紀を超えて遡れば牝馬ながらに天皇賞・秋を制したトウメイ(1966.5.17)などなど。
名前を挙げた馬たち。はたと気付けば、いずれも東京競馬場の重賞を制しています。ウインラディウスは京王杯SC(GII)、東京新聞杯(GIII)、そして今回の富士S。ウメノファイバーはオークス、京王杯3歳S(現京王杯2歳S、GII)、クイーンC(GIII)。トロットサンダーは安田記念と東京新聞杯。ホウヨウボーイは天皇賞・秋。トウメイは天皇賞・秋と牝馬東京タイムズ杯(現府中牝馬S、GIII)。
他の競馬場で重賞を勝っている馬もいますけれど、どの馬も府中の根幹距離重賞をしっかりと勝ち切っています。併せて僅差勝ちが見られますね。ウメノファイバーのオークス、トロットサンダーの安田記念、ホウヨウボーイの天皇賞・秋。いずれもハナ差勝ちです。坂のある長い直線に要求されるスタミナ、そして叩き合いに負けない勝負根性を支えていたのは、代々受け継がれてきた牝系の持つ底力ではないでしょうか。
以上、牝系を見直しても「良い馬だな」というのが、中島理論使いとしての私の感想です。
追記。ああ、トウメイの息子であるテンメイ(1974.4.13)も、母と同じく天皇賞・秋を制していましたね。
最後に、ウインラディウスが母の何番仔であるかについて確認しておきます。
ウインラディウスは母ジョウノマチエール(1990.4.8)が不受胎と流産、2年連続で仔どもがいない後の2番仔です。前週の府中牝馬Sを制したヤマニンアラバスタ(2001.3.30)の記事でも述べましたが、母の初仔や空胎後の仔、不受胎後の仔というのは、続けて生産された仔よりも、身体が健康である印象を持っています。
加速度的に増えているサンデーサイレンス(1986.3.25)の血を父に持つウインラディウスですが、「SS×マルゼンスキー牝馬」と「小岩井の名牝系」の組み合わせは、かのスペシャルウィーク(1995.5.2)と同じです。ウインラディウス、御身7歳と高齢ですが、老いてますます盛んなところをこれからも見せてほしいものです。
以上、オオハシでした。これから走る馬、人すべてが無事でありますように。
ウインラディウスの、ごく簡単な近親牝系図を以下に示しておきます(図中は馬名、生年月日、重賞グレードなど全記載)。
[フラストレート(1900)系 1-b] マリアンナ(1957.5.14) 中央1勝 |ストロングベビー(1969.2.28) 不出走 ||ウメノシルバー(1979.5.25) 中央0勝 |||ウメノローザ(1986.5.28) 地方6勝 グランドチャンピオン2000 ||||ウメノファイバー(1996.5.5) 中央4勝 オークス(GI) 京王杯3歳S(GII) クイーンC(GIII) 最優秀旧4歳牝馬 |||ジョウノマチエール(1990.4.8) 中央0勝 ||||ウインラディウス(1998.3.7) 本馬 中央現役 京王杯SC(GII) 東京新聞杯(GIII) 富士S(GIII) |||サンデーウェル(1992.5.23) 中央3勝 セントライト記念(GII)