習慣K馬通信をご覧の皆様、こんにちは。2005年秋の重賞裏街道を担当させて頂いております、オオハシと申します。今週もよろしくお願い致します。それでは今回は第10回武蔵野S(GIII)について。
武蔵野Sは1990年から1995年まではダート1600mのオープン特別、ハンデ戦でした。1990年のダイナレター(1984.3.3)は62kg、1991年のミスタートウジン(1986.4.25)は56kg、そして1992年のナリタハヤブサ(1987.4.28)が60.5kgを背負って叩き出した1分34秒5のタイムは永らくJRAレコード、1993年のメイショウホムラ(1988.2.17)は59kg、1994年のイブキクラッシュ(1990.3.19)は53kg、オープン特別最後の1995年はイブキクラッシュが57.5kgで連覇を果たしました。勝ち馬の名前を挙げると、まさにひと昔前のダート巧者ぞろい。現在ならば、交流競走の雄としてさらに名をはせていたかもしれませんね。
さて、武蔵野Sは1996年からGIIIに格付けされると同時に別定重量戦となりました。1999年の第4回までは5月中旬から下旬にダート2100mで施行され、ジャパンカップダート(GI)が創設された2000年の第5回から、天皇賞・秋(GI)の前日にダート1600mで行われるようになりました。第1回から順に、キソジゴールド(1989.4.16)、デュークグランプリ(1991.5.2)、エムアイブラン(1992.4.22)、エムアイブラン(連覇)、サンフォードシチー(1995.5.9)、クロフネ(1998.3.31)、ダブルハピネス(1997.3.14)、サイレントディール(2000.3.19)、ピットファイター(1999.2.26)が歴史に名を残しています。特に印象に残っているのは、やはりクロフネが制した第6回でしょうか。「ダートではこんなにケタ違いなのか!!」と人々に思わせた、1分33秒3のJRAレコードによる9馬身差勝ちでした。
戦前。ダート6戦6勝で3歳統一GIを連勝してきたカネヒキリ(2002.2.26)が単勝1.3倍の圧倒的1番人気、そのカネヒキリに対して前走ダービーグランプリ(統一GI)で2着に敗れたサンライズバッカス(2002.4.30)が2番人気、夏の越後S(OP)を圧勝したトウショウギア(2000.6.3)が3番人気でした。
スタート。外のマイネルモルゲン(2000.5.26)とトウショウギア、真ん中のサンライズキング(1999.5.21)がポンとゲートを出ました。いっぽうのカネヒキリはダッシュがつかず最後方から。先行争いはマイネルモルゲン、サンライズキング、カフェオリンポス(2001.1.27)、ドンクール(2002.4.25)等との争いからトウショウギアが二の脚を使い一歩抜け出しました。
道中。先頭を行く大柄で大跳びのトウショウギアのペースは落ちず、800m通過が45秒7、1000m通過が57秒5という速い時計。JRAのサイトによると、ダート1000mのJRAレコードはミリオンセンプー(1984.4.15)が持つ57秒5。日本レコードと同じ時計でトウショウギアは先頭を駆けていました。後続は速いペースを意識してか2番手集団も5馬身ほど後方。カネヒキリは外を回りながらすこし進出して後方3番手。
4コーナーから直線。前を行くトウショウギアは後続にまだ2馬身ほどの差をつけていましたが、さしもの快速も残り400mを切るところで脚色が鈍り加減になり、後続勢から末脚を伸ばす馬たちに飲み込まれました。先行していたドンクールやサンライズキングも一緒に息切れしてしまい後退。代わりに6番手まで押し上げていたヒシアトラス(2000.3.20)が脚色よく内よりの馬場中央を伸びようとしました。しかし、その外から、道中後方の内側に構えていたサンライズバッカスが豪快に末脚を伸ばしました。佐藤哲三騎手の右ムチに応えて、黒鹿毛の3歳馬は弾けるように伸びました。
残り200mを切り、先頭を行くサンライズバッカスと追いすがるヒシアトラスとの決着かと思われたところ、外から脚を伸ばして来た栗毛馬がいました。さすがにGI2勝馬、カネヒキリ。ひと完歩ごとに前の2頭との差を詰めました。けれど、ヒシアトラスを4分の3馬身交わし、サンライズバッカスとの差が1と4分の3馬身になったところがゴールでした。サンライズバッカス、前走敗れた雪辱を見事に果たしました。
良馬場のダートマイルの勝ち時計は1分35秒2、上り4ハロンは49秒5、上り3はハロン37秒7。前後半800mのラップタイム差が3秒8という、最後は我慢比べの一戦でした。
今年の武蔵野Sを制したサンライズバッカスについて、簡単に父系を見直します。
サンライズバッカスの4代血統構成(父、母父、祖母父、曾祖母父)は、
『ヘネシー×リアルシャダイ×サーペンフロ×ジルドレ』
です。これら4代血統構成の各父系を大まかに分けると、
『Storm Cat系×Roberto系×Turn-to系×Royal Charger系』
です。母方の3父系はいずれもRoyal Charger(1942)を直系先祖とするNearco(1935.1.24)分枝系ですね。また、直父系もNorthern Dancer(1961.5.27)系で遡ればNearcoに行き着きます。皆様お分かりの通り、サンライズバッカスは4代血統構成がいずれもNearco分枝の近親父系による配合。サンライズバッカスは、中島理論使いがあまり好まない、Nearco4段重ねの組み合わせになっています。
では、サンライズバッカスは中島理論的に評価できない馬かというと、血統構成とは別に各種牡馬の交配年齢で見る方法があります。中島理論の胡散臭さをかもし出す、いわゆる「太陽のサイクル」というものです。
中島国治氏曰く、人や馬などの大動物は、太陽の運行周期(公転)を元に、生れ落ちた時(0歳)を起点として、満8歳、満16歳、満24歳(以降、8の倍数歳)で生体エネルギーが0に戻る周期活動を持つということです。その0の年回り(8の倍数歳)で交配を行った種牡馬は、自分以前の先祖がすべて0、すなわち無となるということ。これが「0の遺伝」と呼ばれるものです。また、0となった先祖は0ではない先祖と出会ったとき(クロス)、0ではない先祖を0の先祖へと変化させる作用があるということ。数学的に「0×x=0」と表現される式が、馬の血統でも成り立つという考えです。
近親交配は先祖の数を減らして資質の固定を図る交配方法です。その「先祖の数を減らす」という考えの下で、中島理論では0の遺伝で先祖が0になるということをもって、資質の固定が図れると考えられています。詳しくは、中島氏の著書をご覧ください。
前置きが長くなりましたが、サンライズバッカスの4代血統構成を各父の交配年齢で見直すと、
『ヘネシー(満8歳)×リアルシャダイ(満6歳)×サーペンフロ(満7歳)×ジルドレ(満13歳)』
となります。これにより、父ヘネシー(1993.3.25)が満8歳時の「0の遺伝」となる交配になっていることが分かります。
以上、「4代血統構成に血の多様性はないけれど、0の遺伝を用いた近親交配により資質の固定が図られている馬だな」というのが中島理論使いの感想です。
父系について長くなりましたので、今回はサンライズバッカスのごく簡単な近親牝系図を示しておきます(図中は馬名、生年月日、重賞グレードなど全記載)。
[ダイシング(1925)系 7-C] クニノボリ(1958.4.25) 中央0勝 |メジロフレーム(1964.4.22) 中央6勝 スプリングS(現GII) 京成杯3歳S(現京王杯2歳S、GII) |トビノボリ(1967.3.13) 不出走 ||ワールドサファイヤ(1979.4.6) 中央0勝 |||リアルサファイヤ(1986.5.30) 中央3勝 フラワーC(GIII) ||||ホーセンホーライ(1994.5.8) 中央6勝 準OP3勝 ||||サンライズバッカス(2002.4.30) 本馬 中央現役 武蔵野S(GIII) 阿蘇S(OP) |ヤマノボリ(1972.3.12) 不出走 ||メジロエスパーダ(1976.5.14) 中央4勝 種牡馬 |メジロドーヤ(1973.3.19) 中央0勝 ||メジロカーラ(1979.2.16) 中央5勝 京都大賞典(現GII)
米国産の輸入牝馬ダイシングを日本の基礎繁殖とする7号族。ダイシング系からは他にキョウトシチー(1991.5.3)なども出ています。この牝系の歴史も古く、輸入後4分の3世紀を経ても子孫が世代を重ねています。日本の風土に適合し、しっかり根を張る在来牝系。その底力、侮り難しというところです。
サンライズバッカスが母の何番仔であるかについて確認しておきます。
サンライズバッカスは母が空胎後の8番仔です。私が記事を書かせて頂くようになって3週目ですが、3週連続で「母が前年産駒なし後の産駒」が重賞で勝利を収めています。繰り返し書くことになりますが、母の初仔や空胎後の仔、不受胎後の仔というのは、続けて生産された仔よりも、身体が健康である印象を持っています。今回の武蔵野Sでいえば、2着のカネヒキリも母が空胎後の5番仔です。また、サンライズバッカスの半兄ホーセンホーライは、母が流産後の2番仔です。
また、ついで述べておきますと、天皇賞・秋(GI)を制したヘヴンリーロマンス(2000.3.5)も母が不受胎後の8番仔ですね。
「斤量3kg差」と「出遅れ」という1番人気馬からの「フォロー」はあったにせよ、府中の直線を鋭く差し込んだ脚は本物に見えました。ダテに夏の小倉の阿蘇S(OP)を古場相手に1番人気で制していません。伸び行く若駒、サンライズバッカスのこれからに期待しましょう。
以上、オオハシでした。これから走る馬、人すべてが無事でありますように。